監修:S・マーフィ重松(東京大学助教授) 監修・翻訳:岩壁 茂(お茶の水女子大学助教授)
■VHS ■日本語字幕スーパー ■収録時間:58分 ■解説書付
■商品コード:VA-2009 ■¥48,600(税込) |
レスリー・S・グリーンバーグ博士のその他のタイトル→ >>うつに対する感情焦点化療法 |
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グリーンバーグ博士は、近年目覚ましい発展を遂げる感情と認知の研究から得られた知見を、感情体験の促進を中心的作業とするロジャースの臨床理論に積極的に取り込み、それに科学的基盤を与えた。そして、感情体験をより効果的に促進するためにゲシュタルト療法、認知療法、フォーカシングなどの技法をその枠組みに取り入れた。そこに誕生した過程指向体験療法は、現在、最も注目を集める統合アプローチの一つであり、心理療法のScienceとArt(芸術/技法)をつなげる革新的な試みとして大きな期待を集めている。彼の考案した感情体験を促進させる治療技法の数々は、「治療課題」と呼ばれ、精神分析的療法や認知療法にも取り入れられており、心理療法における感情に関する作業の最も重要な介入法としてその重要性と効果が広く認知されている。本セッションでは、クライエントの気持ちの変化を敏感に察知し、そのニュアンスを捉える来談者中心療法の姿勢とより深い感情体験を促し、「自己」の探索を援助する様々な技法の融合が見事に実践されている。
レスリー・S・グリーンバーグ博士
(ヨーク大学教授兼心理療法研究センター所長) |
レスリー・S・グリーンバーグ博士について
レスリー・S・グリーンバーグ博士はヨーク大学より1976年に博士号を取得し、現在はヨーク大学心理学教授、心理療法研究所センター所長を務める。博士はこれまでに心理療法研究学会(The
Society for Psychotherapy Research)の前会長を務め、同学会より、若手心理療法研究貢献賞(The Early Career
Contribution to Psychotherapy Research
Award)を受賞した。教鞭と研究のかたわら個人開業を続け、個人、夫婦療法を実践し、臨床家の訓練にも携わっている。また、感情と体験過程に焦点を当てた、構築主義的体験アプローチ(constructivist,
experiential
approaches)による心理療法の理論、研究、実践に関して多数の論文や著書を発表している。
過程志向体験心理療法の概要
過程志向体験心理療法の基礎は、純粋性に基づく肯定的で共感的な治療関係を築き、クライエントが瞬時に感じる気持ちと体験に対してセラピストが波長を合わせ、それに的確に反応することにある。セラピストはこの共感的な治療関係の中で、クライエントの認知と感情的変化を一定の方向へと導く。この心理療法においてもっとも中心的な課題は、治療関係における共感的敏感さと治療過程における指示、つまり、先導することと追跡することのバランスをどのように達成するかという点である。その目的は、セラピストとクライエントが協力してクライエントの体験を探索し、新たな意味を構築することにある。
このアプローチは、上記の治療関係の諸条件が満たされることにより作られる安全な作業関係の中で、積極的な介入法を体験過程査定的(Process-Diagnostic)と過程指示的(Process-Directive)にもちいる。体験過程の見立てとは、クライエントが現在悩んでいる感情に関わる問題の形態を示す指標(markers)が現れるのをセラピストが聞き分けることである。例えば、感情に関わる問題には自己の二つ以上の部分が対立する自己の分裂などがある。次に過程支指示的とは、そのような指標が現れたとき、セラピストは面接過程において取り組む課題作業を提示し、その課題の解決を促進することを意味する。これまでに以下の5つの指標と課題の組み合せの輪郭が明確にされてきた。 ・自己の分裂を解決するための二つの椅子の対話 ・未完結の経験を扱うための空の椅子との対話 ・しっくりこない(Problematic)反応を解決する系統的感情喚起展開法(Systematic
Evocative
Unfolding) ・不明瞭なフェルトセンスのフォーカシング ・傷付きやすさへの共感的肯定
このアプローチにおいて、セラピストはどの時点でどのような方法を使って様々な体験の探索を促進させるかということに関しての専門家と見なされる。一方、クライエントの体験の内容に関してはクライエント自身が専門家であり、セラピーは発見を目的とする過程と見なされる。セラピストは、最も生産的な作業が可能になるように、そして課題が効果的に解決できるように、クライエントの体験過程をその時点で最も適切な方法を使って先導し、特定の認知−感情作業を促進する。感情は、環境への適応と問題解決を高める自己組織化過程と見なされる。面接過程において感情に到達し、その感情を使ってさらなる作業を行うことが永続的な変容につながると考えられるからである。したがって面接過程におけるセラピストの役割は、クライエントの感情を喚起し、クライエントが感じることの意味を汲み取り、以前に到達できなかった内的資源に到達して感情の再組織化ができるよう援助することである。
クライエントの素性
■トッド ■年齢:34歳 ■性別:男性 ■人種:白人 ■職業:エンジニア ■婚姻関係:マリーと10年前に結婚 ■教育歴:科学系修士課程修了 ■両親:父親(59歳)大学教授、母親、患者が11歳の時に死去。父親は、再婚せず。 ■兄弟姉妹:弟(30歳)
関連する出来事
トッドは、勤務する会社の雇用者援助プログラム(Employee Assistance Program:
EAP)に自ら進んで連絡をとったところ、グリーンバーグ博士を紹介され電話で予約をとった。
ここ2ヶ月、トッドは15日間の「病欠」で仕事を休んだ。疲労、集中力の減退、過去2ヶ月のあいだ「もう仕事に立ち向かうことができない」という感じがしたためである。そのあいだ、「もう仕事だけじゃなく何も立ち向かうことができない」と感じてきた。欠勤が続くことで仕事を失うのではないかと心配するようになり、上司に自分の悩みを相談したところ、上司は彼にEAPと連絡をとるようにアドバイスした。
トッドは日々強くなる「隠れたい」という衝動を抑えて、何とか寝床から起き上がり、出勤しようとがんばってきた。妻のマリーが「命令する」ように「ただやれ」ばいいんだとは分かっていながらも普段の責任感と義務感が薄れ、新しい日が来るのを恐れはじめた。なぜなら「もう切り抜けることは出来ないという自己欺瞞と恐怖」が日々強くなっていくからである。
トッドは6ヶ月ぐらいこのように悩んでいたが、ここ2ヶ月は最悪だった。
8週間前に、マリーはトッドの父親に電話をした。過去にマリーがトッドを助けてあげられなかったときでも、彼の父親はいつも彼の落ち込んだ気持ちから無理矢理でも脱出させることができたからだ。ある日、彼が仕事から戻ると父親から電話があり、父親はいつもの「全く容赦しない、当然だと言わんばかり」の口調で、彼に「気持ちを入れ替えろ、男だろ、そんなに落ち込むままにしている奴があるか、もう子供もいるんだから、お前が子供みたいに振る舞って家に閉じこもって泣くわけにはいかないぞ」と説教した。この電話のあと彼は「ただ死んでしまいたい」と思った。妻と父の目には、自分が完全な「落第者」として映っていると感じたのだった。
しかし、こんな気持ちになるのも自己欺瞞を感じるのも「気分が落ち込む」ことも初めてではなかった。
トッドは父からなぶりものにされて、「負け犬」のように感じたことが前にも一度あったのを思い出した。それは彼が13、4歳のころ、父と弟と3人でスキー旅行に行ったときのことだ。彼ははじめから行きたくなかったが、このスキー旅行のことを楽しみにしていた父と弟をがっかりさせたくなかったので、自分の動きが「ぎこちなくて不恰好」だと分かっていても仕方なくスキーをすることにした。案の定、彼は何度も転んだり起き上がったりしていたのだが、父親は彼にどんどん急な斜面を滑らせた。遂に本当に痛そうな転び方をしたあと、彼は泣き崩れた。「お父さん、もう出来ないよ。僕はスキーが下手だよ」。彼の父親は「しっかりしろ!途中であきらめるな。弱音を吐くな、男らしくしろ。」と怒鳴った。そのとき周囲にはたくさんの人がいたので、彼は侮辱され、身が縮む思いだった。そのあと、彼が転ばないようにふんばった時に手を骨折したために、スキー旅行は急きょ終わりを迎えた。
また1年程前のことであるが、トッドは昇進の推薦を受けていた。彼は新しい地位に値する能力を十分にもっていたし、それがその時の役職からの当然進むべき「次のステップ」だったが、部長は会社の外部から新たに雇用すると決めた。彼は自分が不当な理由で敬遠されたのか、それともこれも自分が「一所懸命にならない」ことの一例なのかと考えた。「何をやっても思うようにいかない。僕はいつも負け犬さ。いつも、2番手さ、二の次なんだ。」
これまでの面接の経緯
第1回面接
トッドは、自分の視点から最近2ヶ月に起きた出来事を中心に話し、気力の減退、集中力の低下、絶望感と悲観的傾向の増大などについて強調した。そして、母の死と父がこれまでずっとトッドのことを批判的であったことを中心に、幼少時代について語った。グリーンバーグ博士は、彼の人生が今どんなにひどい状態かということを理解することにより、共感的なつながりの確立を試みた。
第2回面接
博士は、第1回面接の感情に関わるテーマを挙げて面接をはじめた。そして、彼が今の気持ちの向いているところに進めるようにすると、彼は過去6ヶ月に悪化した自分の状態について、これまでの自分の対処法が失敗してきたこと、1年前の仕事の面での失望感、マリーが8週間前に父親に電話して助けを求めたことなどについて話した。
博士は彼の話の感情的要素を強調し、共感的つながりを強め、治療同盟の確立に努める。そして二人は、自分が不十分であるという気持ちと幼少期の苦痛(父親との納得のいかない関係)の二点について探索するという大まかな目標に合意して面接は終わった。
第3回面接
前回合意に達した目標にそって作業をはじめ、面接半ばに差し掛かったころ、「二つの椅子の対話」が導入され、トッドは「お前は、不十分だ。ダメな人間だ」というメッセージを発する「内在化された批判者」との対話をはじめた。この面接において、彼が13歳の時のスキー旅行に関する題材が持ち上がった。
第4回面接
ビデオに収録
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